野坂独り病棟日記

「飲みたくな、い」

 ぜぇぜぇと肩を揺らしながら、己の喉から尋常ではない呼吸音がする。その音を聞きながら、生きたくないの間違いでは?という冷静な自分の声にも耳を寄せた。

 

 僕には、アレスの天秤システムという計画の一部になることで崇高な目的を果たそうとする決意があった。過去形。現在はそのプログラムが崩壊することで何もかもが無くなった。勿論ただの肉塊となった子供たちは残った訳なのだが。間接照明を一番暗くした状態で付けているだけなので暗い所で思う。

 何故か、もう自由に生きれるというのにとてつもなく悲しくて、泣けてくるときもあって、バイタルチェックから懸念した医者が僕に安定剤を処方するようになった。己に医者の言うことを聞かないという行為ができるはずもなく、そして己自身、自己のみで自己の諸々を管理出来るような力は現在無く(そこがすでにやばい)西蔭や一星に心配を掛けられたくも無い...のでそうすることにした。つまりキャパオーバーなのである。己から出た錆について外部委託したくなったのはそういう訳であった。

 精神薬を処方されるのは実は初めてではなく、以前もこうやってエリを処方された。今回は仕方ないにしろ(一通り処方され行き着いたから)、アレス事態が人間改造集団だったので2度目の処方箋で貰ったのだ(驚くことに)。そのときこの薬のことなど分からなかったし、危険性も知らんし、兎に角絶対服従の主人から飲めと言われればしょうがなかった。だから飲んだ。

 そのときの僕は、どういう風になっていたかというと、フランクに表現すれば嫌なヤツだった。常に離脱症状のイライラや焦燥感、あふれでてくることが''無い''万能感にとにかく苛立っていた。

 飲めば、夜、僕は何もかも思考を放棄し、寮という名の、ただ人間共が犇めき合っていることの大変な気持ち悪さを無視出来ることが出来ていた。それは生まれて初めて味わえた安らぎであって、普通の子供であれば生まれ持って来るものだ。

 生まれて初めての安らぎとは少しオーバーと思う人もいるかもしれない。しかし僕は至って真面目だ。普段、常にどうやってあまり手を汚さず人を捩じ伏せるか、とか、そういうことで脳のリソース余すこと無く稼働させてる人間の気持ちが分かるだろうか。実際に、脳に味覚があったのならば、甘いと表現しただろう。そのときだけは、全ての愛を信じれた。キリストが神だと崇められる気持ちも分かった。この世界は溝と吐瀉物の色ではなく、フランスの詩人のように、''オレンジのように青い''という言葉も理解出来た。全ては面白いことに気付けた。母の気持ちに寄り添い、許せた。

その甘い時間をずっと味わっていたかったという理由で酷いヤツに成り下がっていた。でもそれぐらいは、自分で求めずとも少し位は誰かに与えられたら、と願っても良いじゃないか。

 エリを処方される前、ベンゾジアゼピン系の薬物を複合して眠ろうとしたら焦燥と酷い吐き気に襲われて、2、3、日もそうだったので出来なかった。そんなことがあるのか分からないが、己では1つの見解がある。それは、過去を思い出すというのが吐き気のトリガーになっているような気がする。いや、疾患を併発しているためにそんな単純な話では無いのかもしれないが。兎に角精神薬が己の胃に入っているというのが何か違和感があるのだ。それは罪悪感に似た...

 むしろエリなら良いじゃないか、自分にお似合いでは無いかと思うしかし誰にも迷惑を掛けたくは無い。

 何故生きなきゃ生けないのかなんて愚問だ。しかし、薬というものを無意識の内に気持ち悪く感じてしまうのはいかほどか。生きたくないのか。息苦しい部屋でボンヤリと虚空を見詰めながら無尽蔵に溢れる苦しみを享受する準備をする。

 

 己は、隅々まで行き渡った「抑制」では無くてはいけないのだ。

 

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知る人ぞ知るエリの話

野坂は普通に10歳くらいから処方されてそうてかアレスの人全員ね 特に野坂は使い物に出来ないぐらいヤバくなりそうなほど、アレスプログラムなんていうものを作り出す大人であっても典型的な愛着障害やなんやかんやで、こういった愛情の欠如はストレートな脳の成長に遅れをもたらすからこういうのを飲ませてたというのはありそう 万能感を感じる向精神薬なんて毒のほうが強いだろうけどそれぐらいしないと愛なんて感じれないだろ?ボウや、、、