一星光のイメージss

これもひでえ話ですって前もって言うね、言ったぜ。

一星が殺し屋してます。モブでます。

 

「この辺に牧場って有ります?」

「は?」

 

 私は高校の夏期講習が終わっての帰路で青年に話し掛けられた。何時もはイヤホンをしていた。しかし今日は偶然家に忘れていたので一発で青年の声を聞き取れたが、あまりにも突拍子も無い質問であったために聞き返してしまった。

 

「あっ急にごめんね?この区内に牧場ってある?」

「、、、いえ、多分千葉とかに行かないと無いと思いますけど、、」

「そうだよねー、、君はここで育ったの?」

「はい。ここが地元なので無いって分かります」

 青年は、はーああという声を出し疲れたように顔を伏せる。よくよく顔を見てみると肌は綺麗で女性のような優しい目に睫毛、髪も美しい藍色だ。身なりが良くて、何となく安心感と好意を感じた。

「牧場に行きたいんですか?」

 私はなんとなくこの青年に興味が湧いたので助けようと試みる。

「牧場というか、、、人を探してるんだ」

「なるほど」

 藍色の男はチラチラスマホを気にしている。

「そうだ!ちょっとこの辺案内してよ。俺ロシアにいたりして東京はあまり知らないんだ。あ、別に忙しいとかだったら断って良いけど」

「え?」

ナンパか?

「ここ東京の中でも都心だよね~憧れちゃうな、この辺の高校?」

 楽しそうにキョロキョロする。いやずっと初めからこの男は異様に楽しそうだが。

「はい。あの、なんでロシアに行ってたんですか?」

 男に興味があったので質問した。しかし男は目を一瞬暗くし、ああ、これは聞いたらいけなかったなと後悔する。

「、、、事故で家族を無くしたんだ、、」

「!!」

「うん。ごめん。暗くなっちゃたね」

「い、いえ、、」

「ごめんね、引き留めちゃって」

じゃ、という風に手をあげた男はそのまま去ろうとする。

「?」

 私は咄嗟に男の服を掴んでいた。男は驚いたように目を見開く。

「どうやって」

「ん?」

「どうやって立ち直ったんですか」

 私は震える声を必死に伝える努力をした。夏が終わるというのに湿ってる空気が嫌に肌にまとわりつく。夏の死の臭い。あらゆる生物が死んでいく臭い。

「、、、ちょっと座る?」

 

 頼り無さそうで、でもこの人は大人なんだなあと感じる包容力を感じた。そのまま近くの公園で、奢って貰った飲み物を握って二人でベンチに座る。奇妙な二人。外からは兄と妹に見えるが、名前も知らぬたださっき会ったばかりの二人。

 

「今の母や父は本当の親じゃ無いんです」

 ポツリポツリと自白するように言う。友達には言ったことのないような汚点を。男はただ静かに聞いて、よく頑張ったねという言葉を掛けてくれた。

 また、男の身の上話も聞いた。沢山のことを聞いた。兄のこと、サッカーのこと、友達のこと。

「不謹慎だけど、同じような思いをして生きてきた子がいるっていうのは少し心強いね」

 優しそうな目で男は言う。

「ずいぶんと話し込んじゃったね!今日は時間潰しに付き合ってくれてありがとう」

「暇潰しだったんですか?」

「あはは」

「ありがとうございました、もう会わないと思いますけど」

「ふふ、そうだね」

 そう言うのと一緒に男のスマホから通知が鳴る。

 内容を見たのか、少し顔をしかめさせて眉を潜める。

「どうかしました?」

 男は恐怖に顔をひきつらせたが、そのまま元に戻って言う。

「ねえ、ちょっと散歩しない?」

 私はバカだった。そのまま帰れば良かったのに、いや帰っても同じか。

「いいですよ」

「あの丘に行きたいから車で行こう」

「はい」

「あそこに止めてるのが俺の車!いい車でしょー!」

「車のことは分かんないですけど格好いいですね」

 男はまた上機嫌な様子に戻って私を助手席に座らせる。

「あれ?もしかして煙草吸うんです?」

「いや?」

 じゃあ何でこんなにも煙草の匂いが染み付いているのか、ということを疑問にまったく思わず完全に男を信用しきっていた。

 

 すぐ近くの高台まで登って来た。都外に近づくので人気があまり無く見晴らしの良い所だった。日は沈まりかけていてボンヤリと暗い。

「あの、ここ、ぐっ」

 後ろに立っていた男に話しかけようとしたら急に鼻の粘膜を刺されるようなものを吸い込ませられ、私は気を失った。

 

 身体が冷たく固いものに横たわっていることを感じた。

「あ、起きちゃった?」

 男は椅子の背もたれに顎を乗せて私を見下ろしていた。

 私は状況を冷静に判断し、男を見上げる。

「どうして、という顔だね、ごめんね」

「どうして」

「俺は君を殺さなきゃいけない」

「どうして」

「うーんそう雇われたから」

「なんで」

「君は馬を飼っているね?」

「それは父が」

「そう。上司から曖昧な情報、つまり○区に馬を飼っている金持ちの娘を殺せという命令だったんだ。だから牧場があるか色んな人に聞いて回った」

「なんで」

「そしたら偶然、君と話し込んでたら君が対象だと分かった。うちの上司は忙しい人でね、後から情報を送って貰った」

「父とは血は繋がってないのに」

「うん。知ってる」

「なんで」

「ごめん。なるべく早く絶命出来るようにするから」

 私は薬を飲まされたのであろう重い身体を暴れさせ逃げようとするが、手足を縛られていてなにも出来ない。

「私はまだ幸せになれていないのに」

「ごめん」

「まだ友達ともっと遊びたかったのにっ」

「ごめん」

「大学だって行きたかった!ああぁ、、!」

「ごめんね」

 自分の悲痛な叫びしか聞こえない。男は優しそうな目をしているがそれすらも憎く感じる。暴れ狂う私の髪を強く掴む。

 

 金属が擦れるような危険で高くて大きな音しか聞こえず、まるで自分の今の苦しみを表しているようだった。しかしそれは自分の喉から発せられてる音。

 それはだんだん水音が混じるようになり、歪な呼吸音になり、ただの肉の塊になった。